2023年2月

仕事が長引いている日に友人K君から渋谷にいると連絡。その日に連絡されてもと思いつつ、今から渋谷で飲もうと言われて断るわけもなく、急いで仕事を切り上げて向かう。こんな時間に電車で繁華街に行くということも滅多になくなって、なんだか不思議な高揚感があった。昔に二人で行ったカタラタスという渋谷のビアバーに入店。

聞けば今の職場の研修ということで、辞めるというのに研修に行かせてもらえるとは会社での彼の可愛がられぶりが伝わる良エピソード。4月からの新生活に向けて準備をしているようだが、家が決まっていない不安が大きいようだった。しかし、彼の野心というか、やっぱりまたそこで勝負したいという気持ちには敬服する。真逆の決心をした自分を恥ずかしく思いながらも、自分もそれなりに考えた結果なのでもろもろを伝える。彼の最もよいところは嘘がつけないところだと思う。誰が何を言ってきたとしても、自分の中で疑問に思ったりしたことは必ず口にする。それが嫌な人もいるのかもしれないけれど、自分にとってはとてもありがたい。

THE FIRST SLAM DUNKがやはりやばいらしく、店員さんも交えてそのあたりの会話も一通り盛り上がる。本を読むことをまた始めたということで、SF系を何点かお勧めするなどして終電ギリギリで解散。楽しかった。友達と話すのはいつでも楽しい。

 

健康診断のため、新年初出社。特になんということはなかった。健康診断が午後なので水しか口にできず日中はずっとストレスが溜まっていた。健康診断はつつがなく進む。体重は前年よりも落ちていて、ダイエットというほど気を遣っていないが、それなりに生活を変えた意味くらいはあったのかもしれない。

後日届いた結果では、肝臓の数値も回復しており安堵。

 

配信で「三軍の金帯」を見る。三遊間は最近ちょくちょく見かけるけどおもしろい。とてもいい距離感のユニットライブで今後の発展が楽しみすぎる。軍艦の仁氏が楽しくなって本ネタ前にめちゃくちゃな尺しゃべってるのマジ好き。

 

一度実家に帰って正式にいろいろ話しておいた方がいいかと思い、有給休暇を使って帰省。なんとなく恥ずかしくて親には伝えずに帰った。当日はよりにもよって東京でさえも雪が舞う寒さで、東北新幹線から降りると仙台駅には当然のごとく雪が積もっていた。仕事上どうしても出先での作業が一瞬必要になるため、パソコンを2台持って歩くのはしんどかった。

雪が積もっている中、仙台の「ボタン」という本屋に初めて入る。短歌や詩を中心に、人文やzine、アートも充実している。静かな佇まいと、雰囲気によく合ったラインナップという感じ。現金の持ち合わせがなく、何を買うかかなり吟味した結果、永井祐「日本の中でたのしく暮らす」、榎本空「それで君の声はどこにあるんだ?」を購入。前者は別の歌集をもっていたので知っていたが、後者はなんとなく表紙に惹かれて買った。

その後、「火星の庭」に行く。名前は知っていたが、こちらも初めて。いろいろな古本が並ぶ中で、カフェスペースのようなものもあり、居心地がとてもよさそう。「仙台本屋時間」という、仙台市内の本屋や本が読めるスペースに関する本を購入。読むのがかなり楽しみになる。

雪の中歩いていて指輪を道端で落とした。指輪は雪に埋もれて肉眼では発見できなくなった。絶望した。何度も落としたと思われる位置で足を動かし、引っかかるものがないか探したけれど、何度やっても同じことだった。悲しかった。こんなところにこんな寒い日に来て何をやっているんだろうとみじめになった。それでも気をとりなおさないと本当に泣きそうだったので、地図に従い「曲線」に行った。こんなところに本屋なんかあるのだろうかと不安になりながらもそこにはあった。こちらはエッセイや詩・短歌多めながらも海外小説を中心にいい感じの品ぞろえ。3店とも重なる問題意識と異なる力点が浮かび上がってきておもしろい。悩んで「マンスフィールド短編集」と山田亮太「オバマ・グーグル」を購入。後者はまた読んだことのないタイプの本でかなり楽しみ。詩集ということにはなるのだろうが、イメージする詩集とは少し違う。そういう難しそうなジャンルが少し手を伸ばしてくれているような気になる本が好きだ。

買い物を終えて、あきらめきれずに指輪を落としたあたりに戻ってまた探す。何度か足を動かすと何かの感触が。指輪だった。泣きそうだった。なんとか見つかってもうこれで今日はおしまいでいいやって思った。おしまいで言い訳はなかった。新幹線で重い荷物をもって移動して本を買ってさらに重くなって終わりの訳はなかった。

事前に親に言っていなかったので、親が出かけていて地元駅でやむなく30分ほど待機していたがどうにも凍え死にそうだったので、一縷の望みで倉庫を漁ると自宅の鍵を見つけて入って待った。親は急にこの年になった長男に無言で帰省されるより怖いことはおそらくないだろう。親になったこともなければこれからなる予定もない自分でもそれだけはわかる。犯罪を犯したわけでもなく、仕事をばっくれたわけでもなく、これから心中するわけでもないことと、自分がこれからやろうとしていることをゆっくり話した。話したからそれが成功/失敗するわけではないし、彼らから借金をするわけでもなく、しかるべきところから借金をするわけだから、「はあ、がんばれよ」くらいしか言うこともないだろうと思っていたが、案の定そうだった。

2日間何をするわけでもなく、買ってきた本を読み、次に向けた準備を少しずつ進めた。これからどうなってしまうのだろうか、なぜ自分だけ兄弟の中でこんなことになってしまっているのだろうかという不安や虚しさとやりたいことがあってよかったという安堵とやりたいことをやったらどうなるんだろうという期待と、すべてがぐちゃぐちゃであんまり楽しいことを考えるのは難しかった。頭の中ではなぜかずっとシャムキャッツ「AFTER HOURS」が流れていた。

新幹線が東京に着くころ、母親からは現実的な心配と発破を送られ、父親からは無理だけはもうしないでくれという自分が生み出してしまったものへの責任と後悔のような文章がほぼ同時に送られてきた。一度本気で自殺しようと思って知らない海に入ったときのことを思い出した。あの時に死んでいた方がよかったのか、死んでいなくてよかったのか、いまだに自分ではわからない。

 

仕事が中途半端な間に辞める辞めないの話をしてもいいことはないので、3月に入ってからにしようと決めて、とりあえず日々をやり過ごしている。アトロクのMCU5直前特集を聞き、いよいよ本気でみないとまずいかという気持ちと、映画にテレビシリーズに本当にいろんなものがたまっていて、こんなもん今から手出すやついるのかよと呆然とする気持ちもある。

水曜は午後休をとり、丸福に向かうも臨時休業。仕方なく家に戻って適当に昼ご飯を食べる。こうなってはどこかに行くという気も特に起こらず、家でたまった録画を見たり本を読んだりするなど。忙しいのかなんなのかは正直微妙なところではあるが、こうなると休みもさほど楽しくはない。携帯が鳴らないかを逐一気にしてしまう。保険を解約した。短い付き合いだったが、いい経験だったと思うことにする。どっちみち今の保険を払い続けることは難しくなるので、県民共済を検討する。

 

土曜日、B&Bでzineのフェアをやっているということで向かう。相変わらず慣れない。面白そうな本がいろいろあり、想定よりもたくさん買ってしまった。久保憲司「スキゾマニア」、「メイク・サム・トリップス vol.1」、「Wintermarkt」「DISTANCE vol.3」、「巣」、「近代体操 創刊号」、「Witchenkare Vol.12」、「バル 第10号」、「つくづく別冊①トーク・ショウ スペシャル」、「MAKING Issue:00」。zineや小規模の出版物を買うか買わないかは、次が出そうかどうかと、見た目がzineやございという感じではないかどうかで決める。それっぽい見た目のものをまるっきり買わないわけではないけど、別に普通の本と変わらない内容なんだからどうせならパキッとした装丁で佇む者たちが好きだ。

アップリンク吉祥寺で「ケイコ 目を澄ませて」を見る。なんかもう世の中ってやっぱり最低で、でもその中に平気で自分がいて、それでもそんなことにガタガタ言わずに生きるしかない人がいて、それがまぶしくて、本当にまぶしくて、コンビネーションの練習を何度もコーチと一緒にやるシーンが美しかった。本当はただ好きなことをやりたいだけなのに、「目が見えない」ただそれだけで変なバイアスが生まれて、あるいは女であるということかもしれないし、とにかく別にそれは彼女がどこかで望んできたものではないものがただ好きなことに打ち込みたい気持ちをそのままではいさせてくれない。ジムが遠いからって理由だって、別に変な理由じゃない。あのあと彼女がどういう風に生きていくのかを映画は教えてくれない。でも、弟の彼女との楽しそうな時間や、ジムを畳むことになる前の最後の練習とか、あのジムでの最後の試合のあとに対戦相手と会ったときのこととか、なんかちょっとだけ希望をもってしまった。そういう誰かの希望を簡単につぶすのが自分かもしれないけど。

三鷹市美術ギャラリーで「合田佐和子展 帰る途もつもりもない」を見た。マジでやばすぎてひっくり返りそうだった。もともとは彫刻とコラージュのようなものを作っていた中であるとき家事や育児の合間で絵を始めてそれがもううまいとかなんとかというレベルではない。写真をもとに書いているのだけれど、写真とは多分違うんだろうなというような力が絵からほとばしりすぎているのが素人でもわかる。こんな絵はちょっとうまいとかなんとかではきっとかけない。そのあとのエジプト行ってからのスピリチュアル体験的なものを得てからのは芸術過ぎる。前半は「絵がうまい」「模写がうまい」みたいなことでおさめることもギリ可能だと思うけど、後半は絵そのものよりもそれがまとう空気とか世界みたいなものが飛び出してきてる。あんな物描けたらそりゃ普通の人が見えないものだって見えるだろうし、実際見て体験したんだろうなと納得する。めちゃくちゃなものを見た。

 

翌日、Twitterで知った「EASTEAST_東京」という展覧会というか、ギャラリーやら本屋やらアーティストが集まった催し物に行った。昔にちょっと大きめだけどナードっぽいテイストのクラブイベントに行った時のような感じがした。みんな自由に自分のところで各々みせものしたり友達と思しき人と話し込んだり。服はどこかみんなおしゃれで自分が少し小さく感じる。並んでいるものはどれもおもしろくて、展示は購入可能なものもあったが、さすがに金がない。Stacks Bookstoreの作品集がどれもかなり良くて、一冊購入。こういうのは見ていて飽きないし、気に入った作家は個人的にフォローできるし、非常に良かった。実店舗もあるようで見に行きたい。

その後、調布パルコで開催されていた古本市に行く。昔のSTUDIO VOICEとか集めたくなったけどグッと我慢し、ロベルト・ボラーニョ「売女の人殺し」「通話」、保坂和志「小説の誕生」、平山亜佐子「問題の女」を購入。すべてハードカバーでめちゃくちゃ荷物が重くなりやや後悔。どれも読みたかった本だったのでよしとする。

 

朝から早めに起きてバンダラランカで昼ご飯。プレート1つしか選択肢がないので迷わなくてよい。久しぶりに食べたらどの要素も思っていた倍辛かった。あまり悟られたくないので、口元に運ぶまでのインターバルを長めに置いて、さも優雅な昼食を楽しんでいるかのようなふるまいをしながらおいしくいただいた。

徒歩でAマッソ「滑稽」を見るために草月ホールへ向かう。1本目の漫才で言っていたが、草月ホールは思っているよりも手前にそれらしきものがあり、一瞬不安になる。そして最寄りのセブンイレブンからも思っているより遠い。中身はいわゆるネタバレ云々系なので書かないが、ホラー的なものと笑い的なものって相性いいように見えて、やりすぎると途端に悪趣味系になるが、「笑い」自体をテーマにしているのでその辺うまくとりもてているような。最後の漫才が変化して聞こえてくるあたりは、完全に意味をつかめないながらもゾッとする気持ちと同時に大爆笑してしまった。SNSでは賛否があるようで、お笑い見に来た人からするとまあ言いたいことがあることもわからなくはない。新しいものを見たから満足となんでも言うほど軽い人間でありたいとは思わないが、ライブでやるとしたらリアルにゾッとしつつ、ネタでは笑いたいよなあという欲張りな客を満足させるものにはなっていた気がする。終了後に日清食品から「完全メシ」のサンプルが配られていたが、どう考えてもメシのサンプルを配る系のライブではないので、個人的にはここが一番怖かった。

銀座のガーディアン・ガーデンで『光岡幸一展「ぶっちぎりのゼッテー120%」』 を見た。というか、喰らったに近い気がする。Twitterでフライヤー画像見て気になって行っただけだったけどマジで行って良かった。ぶっちぎりで最高。ものが転がったり動いたりする映像にアテレコしたものが流れ続ける中、突如作者が弾き語りをしてみたり、急にキックペダルをジャンプして思いっきり蹴ったりして、モニュメントが光の当たり具合で変わって空間全体がやけに幻想的だし、ほとんど夢みたいな気持ちになった。ここにずっといて映像と光の移り変わりと音聞いて過ごしたかった。多分今年これよりもおもしろい展示見る可能性ないと思う。

 

翌日、起きるとかなり歯医者に間に合うかギリギリの時間。それでも歯を磨きなおして風呂に入るくらいはしないといけないという、見る人が見たらのんびりしてるくらいの感じで動き始める。一応駅まではタクシー使った。歯医者で言われたことはいつも通り。ちゃんとしないと本当に簡単に歯周病になるっぽい。

歯医者終わりでフジコミュニケーションで昼食。席で勝手にメニュー見て注文して勝手に会計できるのが1人で行くにはちょうどいい。相変わらずどれもおいしかった。

近くに移転したのを知り、コ本屋に初めて行った。アート系のパンフレットや作品集が充実していて見ていて楽しい。人文系も古本を中心にそれなりの数があって、バランスがよいというか、どっちかを目的に来た人が別の方に興味をもつ事を誘発するようなラインナップ。会計中に見つけた雑誌の花椿がほしくなったので、今度買いに行く。飯沢未央「somebody's room」、Kei Isono「uni」、「ことばと Vol.3」を購入。

 

下北沢に移動して「サポート・ザ・ガールズ」を下北沢トリウッドで鑑賞。めちゃくちゃおもしろかったけど、なんか管理職もどきみたいなことしている身からすると、こんなんあったらもうどうしようもないやんみたいなことの連続をリサがめちゃくちゃに奮闘(結果円満解決ではない)している姿は泣ける。ベース面白いけど、実際にある年齢とか性別とか職業とか人種とかそんなんをごちゃまぜにした問題や葛藤を確実に描いていて素晴らしい。それらが単独で問題になっているくらいならだれも苦労してないし、ましてそれがしわ寄せにされる属性があるということ。もっと多くの人に見られたらいいのに。最後の終わり方も素敵だった。

 

有給休暇を使って貯水葉にルーローハンを食べに行く。墨田区なんてほとんど行ったことないところにルーローハンを食べに行くとはいい身分になったものだと感慨深くなる。こんな下町にしだがきれいなルーローハン屋さんがあるというのは異質ながらも心地よい。運ばれてくると意外と小ぶりに感じたけど、めちゃくちゃおいしくて大満足。ちかくのあんみつ屋さんは休みだったので、そちらも合わせてまた来たい。食べていて途中でレンゲを3つ重ねてとってそのまま食べていたことに気づいたが、どうすることもできずにごめんなさいという気持ちと恥ずかしさのみが残った。

浅草駅まで歩く。桜橋は渡らずに、隅田公園の方に向かって歩く。川を見ながら歩くのが好きだ。別に何かを考えてもいいし、水だけ見てぼーっと歩いてもなんか気持ちがまぎれるし。すみだリバーウォークを渡って向こう側に移動した。川の近くに住んでみたい。

 

久保憲司「スキゾマニア」、「メイク・サム・トリップス vol.1」、「Wintermarkt」「DISTANCE vol.3」を読んだ。どれもおもしろい。「DISTANCE」は次で終わりらしいけど、こういうのこそもっと続いてほしいし、別にこれは都市生活者に限ったものではなかったりするので、各地でこんなんがあってもいいのにって思った。

乗代雄介「最高の任務」を読んだ。日記とか手紙という形式がどういう意味を持ってくるのかというのは、町田康の解説も読むとまたおもしろい。あいかわらず回りくどくてやけに賢くて見透かされるような気分にもなるけど心地よくて繊細でそこは弱いんかいと言いたくなるような登場人物たち。「最高の任務」の方の家族が特に好き。

武塙麻衣子「頭蓋骨のうら側」を読んだ。氏の1年間の日記シリーズはこれで最後。どれも素敵な家族とおいしそうなご飯と楽しい映画の話が詰まっている。でも、生活の端々がコロナやちょっとした心の中のざわめきで変化したりすることも書かれていて、寝る前に読んでたけどそのころ自分ってどうだったっけと振り返ってしまったりして、それもこの本のおかげだなと思いました。